ずる、と音を立てて這い寄る音がする。懐かしく、おぞましい気配を感じて目が覚める。道長は既に体は金縛りにあったかのように動くことが出来ず、目玉だけが動かせる。ぞわり、とした寒気はサーヴァントになってからも感じることがあるのかなど、現状から逃避するように思考は明日を向いている。

 やがて気配は真横に来た。ベッドの横、顔を覗き込むようにそれは現れる。

 恨み嫉みを蓄え、生前より悪意で膨張した藤原顕光こと、悪霊左府である。普段であれば黒頭に束帯をつけて不気味な式札を顔を掛けているが、今日は違った。束帯を身につけていることは変わらないが、前は空いておらず、柔和な顔立ちに白く長い髪が暗い部屋の中で浮き彫りになるように目立った。

「道長」

 ひと言、呟くと道長の上に覆いかぶさるように移動した。道長は特に驚くこともなく、現状を受け入れた。カルデアで顕光にこうされるのは初めてではない。夜、偶にこうして道長に会いに来る。悪霊としての能力は1人前なのか、それともサーヴァントとなったことで影響を受けやすくなったのか、それとも悪霊左府は私に対して呪いを強く与えられるのだろうか。そんなことを考えながら服が剥かれていくのを待った。

 老いて尚白く、美しいその顏を憎しみと恨みで歪めながら服を脱がせる。焦燥を感じてるかのように動くこの男をじっと眺めた。憐れと思った。そして愛しいとも。道長に対しての恨みを募らせ身を焦がし続ける顕光を愛しく思った。勿論、それを伝えることは今はできない訳だが。

 服を脱がし終わると、顕光は慣らしもせず一物を道長の秘部に穿った。

「ぅ、ぐ……ぁ」

 金縛りにあっている筈なのに意味の無い声が出る。慣らされてない秘部は痛みしか伝えてこない。苦しげに呻く道長を見て、妖しげな笑みを浮かべると、敢えて快楽を感じない良くない所を狙って穿ち続けた。秘部からは血が出て、道長の表情は痛みに歪められている。それを1人で楽しむ悪霊はまさに一人遊びしているかのようだった。

 上下に振られ、出し入れされる圧迫感だけがある。呻き声を上げながら、苦痛を甘受するしかない私を悪霊は微笑んで犯した。どちらも快楽はろくに感じてはいない。顕光も快楽を感じることを目的にはしてはいない。故にどちらも達すること無く今回も顕光が飽きるまで苦痛を受け入れるだけかと思ったが、今日は顕光から話しかけられた。

「道長、」にやり、と笑みを浮かべ、悪霊は触れられてもいない、ましてや快楽なぞ与えていない道長の一物に触れた。「何故、こうも雄々しくそそり立たせておるのか?」

 痛みで自覚がなかったが、自身のそれは顕光の言う通りそそり立っており、絡みつくような触れ方にピクピクと反応していた。顕光の指から与えられる快楽が痛みの中で映える。痴態に顔を背けたくなるが、生憎体は不自由なままだ。前からは甘い快楽が、後ろからは激痛が伝わり頭が混乱しそうになる。稀に良い所を掠めるが、わざとらしく次の瞬間には外して来るため、激痛は変わらず、重い圧迫感が吐き気さえ感じさせた。

 道長を組み敷く悪霊は笑みを湛えたままであり、苦痛と快楽に翻弄されながら人形のように犯される様に御満悦と言ったところだろうか。

「痛みで感じるのか?」

そんなことない、と言いたかったが口が動かけるはずもなく、睨むだけに終わった。その姿にさらに気分を良くしたのか、面白いことを思いついたような顔をした。

「ふふ、そう煽るな」

そう言うと、顕光は悪意で身体をさらに膨らました。びき、ばき、とひび割れるような音を立てながらその身体を大きく、そして悪霊じみた黒い肌に変容した。大きさ的には、怪しげな法師陰陽師より一回り大きいぐらいだろうか。もちろん、身体が大きくなるということは今挿れている顕光の一物も大きくなるということで、圧迫感がさらに秘部を襲った。良いところも交えながら太く、より長く道長の秘部を蹂躙するそれに、道長の腰はガクガクと震えていた。

 何も言わずに律動を始める顕光は心底愉快そうに顔を歪めて笑った。ひび割れるような音は今も続いており、ぱき、と音を立てて顕光の頬にひびが入る。道長はそれを見て美しいと想った。自分に狂わされて、体を壊しながら自分を蹂躙する存在が酷く愛おしくてしょうがない。

 今もし声が出せていたなら、端ない善がり声が部屋を満たしていたに違いない。先ほどとは変わり、道長の良い所ばかりを抉るように刺激する顕光をみた。前立腺を重点的に刺激したかと思えば、秘部の奥を貫くまで深く挿入する。一物からはだらしなく子種が漏れ出ており、苦痛から快楽に変わった身体は強すぎる快楽についていけず震えるだけとなっている。

「ほれ、解いてやる。善がり狂う様を見せよ。道長」

 今まで情事の最中に解かれたことのなかった見えない鎖が解かれた。体の主導権が道長に戻り、声が自由に出せるようになる。突かれる度に善がり声が出そうになり抑えながらガクガクと震える。快楽を抑えるため無意識に目の前にある顕光の体にしがみついた。

「あっ……ひ、……ぅぁ……

声を出すと快楽をさらに拾いやすくなるのか、甘ったるいくらいの快楽が全身を覆う。最早、秘部にある圧迫感さえ快楽に感じてしまう。

「道長、中に出すぞ」

そう言えば顕光は律動を早めた。快楽の波が押し寄せてくる。善がり声をあげながら、顕光の体にしがみつき爪を立てる。意識が白く朧気になるのを感じながら、多幸感と快楽に支配される。

「くっ……

「ぁ、あ゛っ……

 どく、と脈打つのを感じ、奥に熱を帯びた呪いが染みていく。それと同時に体が果てた。体が重くなり、血が込み上げ、吐き出される。口の周りを血で汚した。それを見て満足げに笑うと、道長が吐き出した血を顕光は舐めとった。

ずるり、と秘部から一物は抜かれた。閉じることの出来ない秘部は外気に晒されて、ポッカリと空いた穴から呪詛混じりの子種を零す。犬のように荒い息をしながら、まだ残る快楽の波に打ち震える。とろん、と快楽に蕩けた目は普段の顔とは大違いで、普段の彼を知るものなら想像さえつかないだろう。

 顕光はそんな道長を、目を細めて嘲笑うとおもむろに立ち上がり出ていこうとした。その袖を掴んだ。道長も自分の意思で動いた行動と言うより反射的に手を伸ばしたようだ。先程まで蕩け切っていたのに、今度は犯していた存在に手を伸ばすとは。自分でも愕然としているのか、表情は困惑の色を含む。

 顕光はこの時、昔を思い出した。道長と争っていない頃。己が若く、道長がまだ幼子だった頃のこと。遊びに来た顕光の袖を掴んでなかなか帰してくれなかったことを。

 顕光は先程の嘲笑を消すと、いつかみた柔和な微笑みで

「また来る。その時まで待たれよ」

そう言って姿を空気に解けるように消した。

行き場を失った手はゆっくりと道長の方へ戻って行った。