寝台の隅に座り、着ていた装束を消す。そして自身の反り勃った肉棒に手を伸ばす。久方ぶりの刺激は脊髄を伝い脳に電撃にも似た快楽を伝える。
「はぁ……」
色を含んだ吐息を吐き出して、欲を吐き出す為に肉棒を手で包み自慰に耽る。
死してから、性欲などは薄れたとばかり思っていたのだがどうも違うようだ。悪霊、それも従兄にあたる男、顕光に体を弄ばれるようになってからというもの、体が快楽を求めてしまう。かといってそれが顕光に知られたら、どうせ私がふしだらだ、色欲魔だと面白がって揶揄うのが目に見えている。故に自慰を行うしかない。
精を吐き出せば終わる。欲望に従った後の倦怠感が早く訪れることを願って自慰を進める。
溢れ始めた先走りが肉棒を伝い、手で扱くたびに粘着質な音が部屋に響く。暑い息が口から吐かれ、身体がぴくぴくと震える。
「ぁ……くっ……」
ぐちゅ、ぐちゅ、という音が繰り返される。おかしい、そろそろ達していいはず。しかし、身体は快楽に染め上がって行くのに対して一向に絶頂の気配がなかった。
僅かに腹の底が疼くような感覚がした。欲を吐く出す時の感覚ではない。より深い、まるであの男に後孔を弄られている時の感覚に似たものを感じた。それを感じたことにゾッとした。これではまるで私が顕光を求めているようではないか。
吐精すればなくなるはず、そう思い自慰を続けるが、腹の底の疼きは止まらない。菊門が収縮を繰り返しているのが嫌でもわかる。
上下に肉棒を扱き続ける右手、先走りを溢し続ける鈴口が目に入る。どろりとした透明な液体が竿をつたい、手指を汚す。潤滑油でも使えば快楽は強まるだろうか、道長は棚からひとつボトルを取り出した。ただの潤滑油では無い。顕光が道長の後孔を弄ぶ時に使う、それ用のモノだと言っていた。「お前も使うか?」と言われて断ったが、ひとしきり道長で遊んだ後に「気が向いたら使え」と枕元に置いていった物だ。
ボトルの蓋を開け、逆さにし肉棒に垂らす。ひんやりとした粘性のある液体がぽたぽたと垂れていく。その上を手で刺激する。ぐちゃ、という音と共に快楽が脊髄を伝う。
息が荒くなり、体は痙攣し、快楽は高まってきているというのに、まだ足りないと体が疼く。
ほんの少しなら良いだろうか。快楽の熱で浮かされた頭に、欲が傾き始めた。要は知られなければいいのだ。どうせ自慰をしていたことを知られればそれだけで揶揄いの種になる。ほんの少しだけ、そう思い道長は後孔に手を伸ばした。
体を横たわらせ、菊門の周りと自身の指を潤滑油で塗らし、出口とも言える入口にひとつ指を添える。既に顕光によって弄ばれ、快楽を教え込まれたそこはぴくぴくと動き、指が入るのを待ち望んでいる。
道長の理性は止めた方がいいと警告が発されていたが、快楽主義の脳はこれを拒み快楽を受理する方へと向かった。
ぐ、と指を押し込む。僅かな抵抗と、ようやく入ってきた指をぎゅう、と締め付ける肉の管。蠢く肉に初めて自身の指を入れたが、まるで奥に指を誘っているようだと道長は思った。
「は、ぁ……ぁ、」
指を出し入れする。その度、菊門が刺激され、ようやくまちわびた快楽が脳へ伝わる。びく、びく、と体が歓喜に震え、指にまとわりつく肉は蠢き、肉棒ははしたなく白濁の精をこぼした。
先程まで精が全く出なかったのに、後孔に指をひとつ入れただけでこんなになるなんて。気持ちよくて仕方がない。
だがまだ足りない。確か顕光がよく触れる場所があったはずだ。そこは何処だろうか。たしか、前立腺と言っていたはず。
肉壁をかき分けながら奥へとすすめる。指が半分入ったぐらいで、僅かな快楽が脳へ伝わる。ここだ、と道長は見つけたことを喜んだ。
指を曲げ、軽く圧迫する。それだけで心地よい快楽が頭を染めあげていく。
「ぁあ、はぁ……ん゛っ……」
控えめな、しかしハッキリとした色を含んだ声が室内に響く。夢中になって圧迫を繰り返すと、鈴口からははしたなく精が零れ落ち、己のからだとシーツを汚していく。ぐちゅ、ぐちゃ、と後孔からいやらしい音をたてながら、何度も身体を大きく震わせて絶頂した。
達するたび、ぎゅう、と肉壁が絡みつき指を締め付ける。まるで更に快楽を求めるように蠢いている。顕光が抱く度に淫乱と言ってきたが、その理由がわかったような気がした。まるで自分の体じゃないようにさえ思うが、快楽に染められた頭ではまともに考えられない。快楽を体が求めているなら、快楽を与えなくては。
指を軽く曲げ、前立腺を圧迫しながら出し入れする。指を引き抜こうとする度、ぎゅうと締め付ける孔が外へと引かれる。
快楽が高まり、頭に霞がかかる。ガクガクと腰が震え、肉棒は透明な液体を零していた。
「ぁ、あきみつ、どの」
自分の吐いた言葉さえわからない。ただ、その後強い快楽が道長の体を包んだ。体が大きく痙攣し、孔は収縮を繰り返す。意味を含まない言葉が口から発される。背が反り返り、背を向けていた側の景色が僅かに目に映った。
なにか、黒いものが目に映る。背を向けていた壁側から黒いものが見える。霞のかかった頭では何も分からない。ただそこに何かがいた。
「一人でここまで乱れるとは、やはりお前は淫乱よな」
声に聞き覚えがある。懐かしい声。生前、幼き頃から聞いていたような……。
何も分からない。脳が動くことを拒み、微睡みに近い心地良さが体全身を包んでいた。
ず、と音を立てて黒いものが顔を近づける。目の描かれた札。黒い束帯。さらけ出された肋骨。そこに居たのは悪霊左府、藤原顕光だった。
つー、と首筋を指でなぞる。ぴく、と道長の体が動き、蕩けた目が顕光を凝視する。
「そんなに蕩けた顔をして……ふふ、お前の臣下共が見たら何と思うかな」
声をかけられても何も分からない道長はただこちらを注視するのみ。道長の普段の姿とはかけ離れた状態に顕光は高揚感を覚えた。この状態で、新しく持ってきた張形を使ったら道長はどんな姿を見せるのだろうか。隠し持っていた張形を道長の前に見せる。男の肉棒を模していながら人間にはありえない大きさで突起のある張形は触り心地も男のそれに近い。見せたところで理解できない道長は惚けた顔でそれを見るだけだが。
見ていたが後孔には指一本しか入れていない。それでここまで乱れるなら、道長はこれを入れてどう乱れてくれるだろうか。
張形に潤滑油を垂らし、道長の菊門にあてがう。
「ぁ……?」
「もっと乱れておくれ、道長」
小さな部屋に嬌声が響いた。