舌を


「それで、晴明が――」

 晴明、晴明晴明晴明。

 目の前にいる法師陰陽師の話はいつも晴明の事ばかりだ。私がこのカルデアに来てしばらくして、最優の陰陽師、安倍晴明は来た。そしたら、この陰陽師は延々と晴明について話す。何を言われただの、何をされただの……

 今の姿――悪霊を模した第三の姿、この姿以外の生前を模したものであるなら、あやつの愚痴のひとつやふたつ、楽々聞けた。しかし、今は悪霊としての私だ。聞いてやれるほどの優しさなどはない。ましてや、恋情を抱く相手なら尚のこと。

「道満」

「ンン……なんですか?」

「少し五月蝿いぞ」

そう言って奴の口に噛み付く。歯列を舌でなぞり、舌を絡め取る。突然の出来事に道満は口を離そうとするが、後頭部を掴み逃がさないようにする。

 しばらく口吸いを堪能して、口を離す前に道満の舌を噛みちぎってやった。

 やつの体が大きく震え、目には驚きを湛えている。血の味が口の中に広がった。噛みちぎった肉片を咀嚼し、飲み込む。生憎、美味い肉という訳では無いが、道満の血肉を喰った事実は甘美なものだった。舌を噛みちぎられた道満はボタボタと口から血を流しながら前屈みに俯いている。じっ、と私を見る視線が痛い。

 暫くして舌が治ったらしい道満は話しかけてきた。

……煽りましたな?」

「生憎、他の男の話をペラペラとよく喋る口の黙らせ方はこれしか知らぬ。そして、ただの口吸いど興味も無い」

にやり、と笑って返せば、道満もいつもの笑みを浮かべた。体を抑え込むように抱きしめられる。

「では、拙僧も」

再び口吸いをされる。甘露な鉄の味が口の中に充満する。先程は好きにさせてもらったので、今は道満に任せるとする。舌を噛んだ……いや、噛みちぎったのだ。なにかされても文句は言えまい。と思っていたのだが、道満は何もせずに口を離した。おかしい。道満がそんな簡単には終わらせるわけが無い。

 道満が簡単に離したことに唖然としていると、舌が熱くなっているのに気がついた。なんだ、これは。

「おや、気づきましたか」

……何をした、道満」

にたぁ、と笑みを深めた道満は両頬を掴むように手を添えた。

「口付けをすれば分かりますよ」

そう言って口を塞いだ。舌が入ってくる。そして道満の舌が、私の舌に触れた時、快楽に体が震えた。舌を触れられただけではない。まるで、菊門の奥を道満の陰茎で蹂躙される時のような――。

「煽るようなお方には仕置が必要にて」

こんな術をかけてみました、と悪どい笑みを浮かべた。

舌を絡め、なぞられる度、腰が震えてしまう。挿入されている訳でもないのに強い快楽が身体の内部から伝わってくる。キスから逃れようとするが、両の手で抑えられている為顔を背けることも出来ない。

 たらり、と自身の陰茎から垂れてきているのを感じた。菊門ははくはく、とはしたなく収縮と弛緩を繰り返している。腰は既に抜けていて、道満に倒れ込むように支えてもらっている。

「顕光殿、寸刻でここまで出来上がるとは、ふふ、これでは仕置になりませぬなぁ?」

ぐったりと快楽に身を任せる姿は悪霊らしくは無いものだろう。

「道満……

「はい、顕光殿」

「抱いては、くれぬのか、」

先程の快楽は心地よくはあった。しかし、まだ足りない。まだ欲しい。いつもの私であればこれ以上の快楽は要らないと思うだろうが、悪霊である為欲の抑え方など知らない。欲しい。道満が。

……やはり、顕光殿は拙僧を煽るのがお上手で」

そう言うと私を抱えベッドに向かう。互いに服を脱ぎ、ベッドに互いに向き合うよう座ると――対面座位と言ったか、私が道満の足を跨ぐように乗る。

「解さなくても良いので?」

……して、ある」

……はい?」

上手く伝わらなかったのか、キョトンとした顔をしている。

「準備は、来る前にしておいた。」

顔に熱が集まるのが嫌でもわかる。道満に目を向ければキョトンとした顔から笑みを深めた。

「それはそれは、顕光殿。もしや、期待してたので?」

……っお前の呼び出しは八割コレだろうが」

「ふ、ふふふ、愛らしい。真に可愛らしいですぞ」

……もう黙っておれ」

そう言って奴の陰茎に触れる。体格に合わせて立派なそれは既に勃起している。収縮と弛緩を繰り返していた菊門に当てれば、ぞわりとした感覚が背筋を伝う。正直に言えば、私の体格に較べてこの陰茎は大き過ぎる。全て入れれば辛い、と分かってはいるが欲を我慢できるほど、私はできた人間じゃない。

「あ、あ゛っ……

 少しづつ少しづつ開いていく。待ち望んだ快楽が身体を染め上げる。じわじわと毒のように広がるその快楽は私の僅かに残った思考も奪う。

「ここで一気に入れたらどうなるのでしょう?」

「え?」

突然かけられた言葉を理解する前に腰に手を当てられ最奥まで到達する。

「あ゛っ」

ぐぽっ、と嫌な感覚がし、強い快楽が全身を覆う。ガクガク痙攣し、自身の陰茎は意味もなくたらたらと白濁の液を流し続ける。許容範囲を超えた快楽の波が押し寄せ、無意識に道満にしがみついた。

「ど、うま」

顔を上げ、名前を呼び、軽く睨めば悪びれる様子もなく「申し訳ありませぬ」とニヤニヤ笑ってくる。

「顕光殿があまりに魅力的で、つい」

唇に軽く触れるだけの口付けをされる。そして、額に、鼻に、耳に、道満の目に止まった場所に口付けを贈られる。まだ快楽の波が収まらない私は、道満の好きなようにされていた。

 こうして私を待ってくれる分、道満は優しいと感じてしまう。ご機嫌取りをさてれいるようにも感じはするが、そうだとしても人からの優しさは私には甘美なものだった。

「道満、もう動ける」

そう言って動き始めれば、それを補助するように腰に手を当てられる。奥には当てないようにする。強すぎる快楽は今は求めていない。道満も分かっているのか、深く入れようとはしてこない。

「ぁ……っはぁっ」

緩慢な動きを続ける。快楽が心地よく全身に広がる。気持ちいい。

「顕光殿」

 呼ばれたので道満の方を見る。すると口を覆われた。口吸いをしたいのか、と惚けた頭で受け入れた。受け入れてしまった。

「ん、んんん?!」

舌を舐め取られた時には遅かった。奥を刺激されるような快楽が広がる。舌の術はまだ続いていたのだ。力が抜けた私は腰を落としてしまい、道満の陰茎と術で奥を蹂躙される。

「ん゛〜!!」

体が反り返る。が、道満が口吸いを辞める様子はなく、挟み撃ちにされるような快楽が全身を包む。強すぎる快楽に痙攣し、生理的な涙が頬を伝う。意識が飛びそうなほど強い快楽だ。

 ようやく口を離されたと思った時には、体に力が入らず、ぐったりとベッドに倒れ込んでしまった。何度も何度も達し続けた余韻が抜けない。

「ぁ、は、……

「ふふふ、顕光殿は真に可愛らしいですなぁ、しかし……

拙僧はまだ達しておりませぬので。

そう言うと倒れ込んだ私の片足を持ち上げ深く陰茎を挿入した。

「なっ、あ゛!!」

躊躇なく奥を蹂躙される。ぐぽ、ぐぽと奥を抉られる。

「嫌、だっ道満、止め、ひっ!そこ、や、」

「顕光殿は奥を嬲られるのはお嫌いでしたか、そうですか!」

そう言ってまた深く陰茎を刺す。

「〜〜!や、ひぃっもう、止めろ……あぁ!」

「ふふふ、顕光殿。お嫌いと言ったにしてはとても気持ちよさそうで……

耳を舌で舐められる。じゅる、と音をたてながら熱い舌で舐め取られる。音が耳を支配して、脳を直接犯されているような錯覚を起こす。その間にも、菊門の蹂躙は止まらないのだからたまったものでは無い。止まらない快楽に恐怖さえ覚える。

「あ、道満。無理、むり、もう、無理だ……

「顕光殿、もう少しで拙僧も達しますので」

道満に手を伸ばし許しをこえば、道満の手が絡み取るように握られた。先ほどより早い律動で奥を嬲られる。もうずっと達し続けている。身体は限界だった。頭も気持ちいいとしか考えられない。

「顕光殿、中に出しますぞ」

その宣言通りに道満の体液が流れ込んでくる。その体液にさえ、この身体は快楽を見出してしまう。ガクガクと快楽に震える体を抑えられない。犬のような荒い息で快楽が抜けるのを待つ。

「顕光殿、申し訳ありませぬ。無理をさせてしまいました。」

そう言って許しを乞うように体をすり寄せてくる。快楽に染まった身体は、肌が触れただけでも快楽を感じさせてくる。

「だい、じょ、ぶ」

本当は大丈夫な訳が無い。快楽は抜ける気配がないし疲労はかなりある。しかし、今回抱いて欲しいと言ったのは自分だ。ここで道満を責めても仕方ないだろう。

「顕光殿は、相変わらずお優しく……

そういった道満は軽く口付け、その後に舌を絡めてきた。

 強い快楽はもう襲ってこなかった。